朝香の浮気現場を見てしまった私は、彼女とまともに顔を合わせることができなかった。

彼女から真実を問いただすのは、私の中の何かが許さなかった。

――会社の関係者かも知れないでしょ?

自分からそう言ったものの、やっぱり私は怯えていた。

自分の妻の浮気を認めたくない。

認めたら、私は崩壊する。

葛藤が、さらに私を苦しませた。

そんな私の心情に一番気づいていたのは、私でも朝香でもなく、優衣だったのかも知れない――。


浮気を目撃してしまってから、私のトランペットの演奏にも大きな影響が出ていた。

自分でもわかるほど音が雑になっているのだ。

「大丈夫ですか?」

佐々木や関係者から何度も言われた。

そのたびに私は笑顔を作り、「大丈夫だ」と答えた。

“スランプが来ているだけ”

そうやって自分自身にも言い聞かせた。