「最後に、やりたいことはあるか?」


男の言葉に、俺は死の時間が近くまできていることを悟ったが、“怖い”という思いはなかった。


死ぬことに後悔がほとんどなかったせいだろう。


両親は幼い頃に交通事故で死んでしまったし、会社ももう辞めている。


俺が死んでも、気にかけてくれる人は一人しかいないだろう。


千鶴しか。


「千鶴に会いたい」


やり残した事は、それしかなかった。


男が唇の端を片側だけ上げて笑った。


「そう言うだろうと思っていたよ」