握りしめていた手でドアを2回ノックした。
けれど、中から返事は返って来ない。
もしかしたら、既にシャワーを浴びに浴室かもしれない。
そう思った私は、勇気を振り絞って行動に出る。
「失礼します!」
ゆっくりとドアを開けると、
ベッドサイドでYシャツ姿の彼が立っていた。
一瞬視線をこちらに向けてくれたけど、
あくまでも一瞬であって、私を見た訳ではない。
直ぐに背中を向けてネクタイを解き始めた彼。
まるで、私の存在を無視しているかのように。
胸の奥がチクッと痛みを帯びて、鼻の奥がツンとした。
今にも目から涙が零れて来そうなのをグッと堪え、
私は彼のもとへ歩み寄る。
「京夜様」
「………」
「私が何か、気に障るような事をしましたか?」
「………」
「先輩に話したのは京夜様との事ではなく、私の気持ちを話しただけです」
「………」
「好き……だと気付いたのが、別れた後だったから。どうしたらいいのか分からないと、話しただけです。それでもやっぱり、ダメなんですか?」
消え入りそうな声で必死に語りかけた。



