自宅に到着しても彼の不機嫌は治まらず、
視線すら合わせてくれなくなっていた。
必死に打開策を考えてみるものの、
何一ついい考えなんて浮かんでこない。
彼は無言で自室へ入ってしまった。
ドアをノックしようと片手を上げるものの、
叩く勇気が湧いて来ない。
また素っ気なく拒絶されたらどうしよう。
冷たい視線だけならまだしも、
私の存在自体を振り払われたらどうしよう。
掛ける言葉が見当たらず、ドアの前で立ち尽くす。
私は静かに瞼を閉じて、想い描いた。
大きな試合の前はいつも緊張して気合いで負けそうになる。
そんな時はいつだって心に未来を描いて来た。
勝利した自分。
喜んで笑顔になる母の姿。
そして、誇らしそうに見つめる父の姿を。
だから、自分のゲン担ぎをしてみようと思った。
ドアに向い、深呼吸。
両手をギュッと握り、肩の力を抜いて……。
『希和』と優しい声音で囁きながら
破顔した彼がギュッと抱きしめてくれる姿を。
ヨシ!!
いざ、勝負!!



