「なぁ、希和」
「はい?」
「あの男は、誰だ」
「えっ?」
京夜様の視線を辿ると、
そこにはさっきまで一緒にいた先輩がいた。
「先輩です」
「先輩?」
「はい、同じ部署の主任で、私と京夜様の愛のキューピットさんです♪」
あまりに嬉し過ぎて、テンションが高い!
いつもは口にしないような事がスラスラと出て来るッ!!
言った後に自分でも驚き。
「彼が諦めるのは早いって、背中を押してくれたんですよ?」
「へぇ~、アイツに俺らの関係を話したんだ」
「えっ……?」
軽いハグのように抱き留めて貰えた身体が
彼の言葉と共に緩やかに解け……。
「乗れ」
「………はい」
何故か、完全に怒らせてしまったようだ。
物凄い威圧感のあるテールボイスが耳に届いた。
チラッと先輩の方へ視線を向けたが、
今はそれよりも京夜様の方が気になって仕方ない。
私は先輩に会釈して、急いで車に乗り込んだ。
BGMも流れず、会話も無い。
息づかいすら漏らしてはいけない雰囲気が車内に立ち込め、
私は、膝の上で両手をギュッと握りしめていた。



