日本の空港に到着した俺は、逸る気持ちで降機した。
入国審査を済ませ、護衛の者らと共に専用受付へ。
税関の支払いを済ませ、荷物の受け取りは御影のスタッフに任せて。
俺は護衛の者を連れて、自社へと向かおうと専用通路を足早に進む。
駐車場へと向かう途中、ターミナル内のフロアを通過した、その時。
視界の隅に珈琲ショップが見えた。
自社までの道中、珈琲を飲みながら愛車を走らせるか。
「ここまででいい。寄り道して会社に行くから」
「承知しました」
「荷物はマンションに頼むな」
「承知しました」
護衛の1人が荷物を担当するスタッフに無線で合図する。
俺は護衛をその場に残し、珈琲ショップへと。
近づくにつれ、香ばしい香りが鼻腔を掠める。
無性に彼女が淹れてくれる珈琲が飲みたくなる。
テイクアウトでアイス珈琲を購入し、愛車がある駐車場へと向かった。
「あっ、すみません」
「いえ………ッ?!」
ターミナルに隣接している駐車場の入り口で、
エレベーターへと向かう女性と肩がぶつかった、次の瞬間。
俺はその女性の手首を掴んでいた。
どう説明したらいいのか分からない。
咄嗟の行動に適当な言葉が見当たらない。
女性はキャップを目深に被ったまま、
俺が掴む腕に視線を落とし、振り切ろうと手を引いた。
けれど、俺はますます力を入れて離さなかった。
直感?
無意識に脳が『掴め』と判断を下したんだ。
周囲を行き交う人々が俺らに視線を向けるが、そんなことはどうでもよかった。
女性はますます力を入れて俺の腕を振り切ろうとし、
胸元まである長い髪がふわりと揺れた。
そして、俺は絞り出すように言葉を発した。



