スノーホワイトの色味のドレスは、トレーン部分に刺繍が施されており、
観客は視線の先にあるそのトレーンに皆魅了されているのだが、
つば広帽子のつば部分の陰に隠れたモデルの顔が、一瞬彼女に見えた。
魂を抜き取られてしまったかのように見入ってしまう。
金縛りに遭ったみたいに呆然としている間にモデルはターンし、来た道を戻ってゆく。
モデルウォークだからか?
歩く姿の雰囲気は全く違う。
女性はメイクでだいぶ雰囲気も変わる。
けれど、ほんの一瞬だが、視線が合った気がした。
ショーが終わりに差し掛かり、モデルが次々と姿を現した。
俺はもう一度彼女の顔を確認しようと少し身を乗り出すと、
みかが無言の圧力を加えて来た。
『みっともないから止めなさい』と。
俺だって分かっている。
クールに鑑賞したいのは同じだ。
だが、もう一度だけ、確認したくて……。
デザイナーであるJ氏が最後に姿を現した。
「ん?」
普通であれば、ショーの最後にデザイナーと共にランウェイを歩くのは、
デザイナーの渾身の作品である為、デザイナーと腕を組んで登場することが多い。
だが、俺の目の前に現れたのは、J氏の両脇にモデルが。
両側のモデルと腕を組み、優雅に歩くJ氏は満面の笑みを浮かべ
その脇に堂々と歩くモデルの2人。
手前側のモデルは、ラベンダー色のドレスを身に纏い
妖精をイメージしている為、スティックを客席に向け振り翳している。
そして、奥側にあの白いドレスを身に纏ったモデルがいる。
けれど、俺とは反対側の客席に視線を向けている為、表情がよく見えない。
再び見た感想は、はやり違うように思えた。
歩く姿勢がそう思わせるのか、
ポージングが綺麗に決まっていて、ドレスの特徴を良く表現出来ていることもあり
プロのモデルだと思えてならないからだ。
ハイヒールで歩くことが苦手だった彼女のことを思い出すと
到底同じ人物だとは思えなかった。
どうかしている。
冷静に考えてみれば分かること。
彼女がモデルとしてショーに出るわけないのに………。



