みかは鋭い視線を向けたかと思ったら、その場にいたスタッフに話しかけた。
暫くして俺の元に来た彼女の手には簡易包装されている傘が2本。
その1つを俺に差し出した。
「これ、京夜のハニーに」
「は?」
「だから、これを京夜のハニーにプレゼントするわ」
「…………」
どう切り出していいのか言い淀んでいると、
みかは俺の背後にいる護衛の者に彼女の分を預け、自分の護衛の者に自分の分を預けた。
「伯母様から聞いてるわ。大丈夫よ、そのうち帰って来るわよ」
「…………だといいけどな」
「そんな弱気だからダメなのよ」
「…………」
「何も考えず、俺の胸に飛び込んで来い!くらい言えないから戻るに戻れないんじゃない」
「っ……」
みかは手をひらひらと振りながら、隣のブースへと歩いて行く。
みかに言われて改めて思う。
本当にそうだ。
彼女がどんな状態であれ、俺は俺だし、彼女は彼女だということに変わりはない。
学歴や容姿に惹かれたわけじゃないし、
そもそも、俺に『恋愛』という感情を抱かせたのも彼女だ。
運命や宿命という言葉に雁字搦めに囚われていたのかもしれない。
もしかしたら、家を出たことを悔いてるかもしれないし。
ヨシ。
思い立ったが吉日。
今から彼女に逢いに行くぞ!
「みか、悪いが俺は………」
「…………ん?…………何て?」
みかに駆け寄り、悪いがショーには同席出来ないと伝えようとした、その時。
一瞬視界に彼女らしき人物を捉えた気がした。
辺りをキョロキョロと物凄い形相で確かめる。
だが、それらしい女性の姿は無く、見失ってしまった。
気のせいだろうか?
俺が逢いたいと思うばかりに、似たような容姿の人を重ねてしまったのかもしれない。
ほんの少し期待してしまった分、自分の勘違いなのに落胆する愚かな自分。
深い溜息を吐いていると、みかが覗き込んで来た。
「頭でも痛いの?」
「いや、…………ここが」
苦しい胸を拳で軽く叩くと、みかは早とちりして護衛にすぐさま合図した。



