「珍しいな、……こういう店に入るの」
「ウフフッ」
ハイブランド志向のみかにとって、路地裏の小さなアトリエっぽいお店に入るなんて意外だった。
不思議に思いながら後を追うと、
みかは丁寧に刺繍が施された小さな白いベビーシューズを2足購入した。
店を出ると、みかは先ほど買ったうちの1つを俺に差し出した。
「これ、玄関に飾って」
「ん?」
「ヨーロッパでは、玄関にベビーシューズを飾ると幸運が訪れるらしいの」
「へぇ」
やっぱり女性なんだなぁと感心してしまった。
「何、その顔」
「失礼だぞ」
「馬鹿にした感じが、すっごく嫌」
「だったら、もう帰るぞ」
「あっ、……それは困る。もう少しだけ付き合ってよ」
「………ったく」
媚を売るような素振りを見せたわけじゃない。
バッグから手帳を取り出し、まだ買い残しがあると脅迫して来たからだ。
さすがに、手土産も買わずに帰すわけにもいかず。
俺は渋々歩き出した。
「あと2軒だぞ」
「分かってるって」
俺が急かすものだから、焦って辺りをキョロキョロし出した。
「時間はあるから、ゆっくりでいい」
「………うん」
いかにも観光客といった素振りを見せたらスリに遭ってしまう。
だから、いつでも堂々としてないと危険を伴ってしまうから。
一応護衛の為に、少し距離を取った状態で4人の護衛が見張っているが、
犯罪を犯す奴らはそんなことは承知の上で仕掛けてくる。
学生の頃にボーっと歩いていたら、見事にすられてしまって嫌な思いを経験してる。
お金が問題なんじゃない。
人として見下された感があるというか、
隙があると思われていること自体が問題というか。
常に堂々としていないと、いつどこで騙されるか分からない。
生きていくということは、常に危険と隣り合わせだと両親から教わった。
みかの半歩後ろを歩きながら、護衛の者とアイコンタクトを取ってーーー。



