目の前にある自分の指先がほんの少し濡れている。

それは、先ほどの行為が現実に起こった事だと肯定してるんだけど、

ティッシュで拭き取ったり指先で拭ったりしたら失礼に値するし、

それこそ、ペロリと嘗めでもしたら、完全に変態だ……私。

気にせず何事もなかったようにしようと顔を上げた、次の瞬間。


「バイ菌か?………俺」

「あっ、いえ、そうではなくて………。その、京夜様の唇の感触が………」


バツが悪そうな顔つきでティッシュを1枚シュッと引き抜いた彼は、私の言葉に唖然とした表情を浮かべた。


「何を言い出すかと思えば、ホント、期待を裏切らないな」

「えっ?」

「フッ、………これならどうだ?」

「んっっっっ!!」


柔らかい笑みを浮かべたのは一瞬で

瞬く間に魔王の表情に変わった彼は私の手首をガシッと掴み、

目元を細めながら薄い唇が私の指先に覆い被さった。

もう言うまでもない。

私の人差し指は彼の口腔内に収まり、艶めかしい音を立てながら吸われてーーー。

数秒間吸い続けた彼は満足そうに口を開け、


「こういうのが好きなのか?」

「ふぇっ?」

「聞いてみないと分からないものだな」

「・・・・・」


指先に残る余韻に脳内が思考を完全に拒否しているため、

彼の言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまった。


「ちっ、違いますよっ、京夜様ッ!って、完全に違う訳じゃないんですけど、何ていうか………」


彼の突飛な行為に動揺して紅潮したのも事実だし、

彼に吸われるというか、触れられるというか、

とにかく、京夜様とこんな風にイチャイチャしたいのは本当なんだけど。

うーん、言葉で言い表すのは難しい。

決して今の行為が嫌な訳ではないと、必死に表情で伝えようとした、その時。


「女心は分かりづらいな」

「え?」

「俺はこっちの方が好きだけど………」

「んっ…………」


彼と出会って初めてかもしれない。

こんな風にさらっと。

しかも、ストレートに彼の言葉と気持ちが伝わって来たのは。


いつもは不意を突かれたり、焦らされたりするのに

今の彼は飾らない素の御影 京夜なのかもしれない。


後ろ首を支える少し力んだ指先が次第に優しく

そして、触れるその場所の先にはーーーーーーー