私が負傷してしまったせいで、
いつの間にか、京夜様はお酒を口にしなくなった。
私を気遣ってくれていることはひしひしと伝わってくる。
何をするにも私の顔色を窺ってるし、
何より、自分ファーストだった彼が
私を最優先に考えて下さるようになったのだから。
それが凄く嬉しいんだけど心苦しくもあって。
彼の為に何も出来ない自分が本当に不甲斐なくて。
何をしたら許して貰えるんだろう。
どうしたら、彼の傍にいられるんだろう。
そればかりが脳内を駆け巡る………。
真面に彼の顔を見ることすら出来ない。
せめて、彼の好物でもテーブルいっぱいに並べて、
好きなお酒を存分に味わって貰いたい………それしか思い浮かばなかった。
「2人でもホームパーティは成立するんだな」
「フフフッ、そうみたいですね」
手作りピッツァや有機野菜のマリネが気に入ったご様子。
酢が効いた料理はあまり好きじゃない彼だけど、
こっそり取り寄せたいよかん酢がお気に召したようだ。
仄かに甘い柑橘の味わいが、酢のツンとした尖った部分を和らげてくれている。
京夜様は私の体を気遣って、最初の1杯だけ軽めのカクテルを作って下さり、
2杯目からはノンアルコールドリンクを用意して下さった。
本当は考えたくもない現実を忘れたくて、
記憶が無くなるくらいウォッカやウイスキーを浴びるほど飲みたかったのに。
けれど、お酒にのまれた状態になった所で、現実は変わらない。
京夜様に醜態を晒さなくて済むのだから、彼には感謝しないと。
京夜様は少し酔われたのか、
仕事用の手帳とタブレット端末を交互に眺め、独り言を言い始めた。
そんな彼の横顔をじーっと見つめ、
酔っていてもカッコイイなんて狡いと思いながら、マスカットをパクリ。
すると、視線はタブレットに向けたまま口元がこちらに向き、しかも、開いている。
……………えぇ~っと、これは、マスカットをくれってこと?
見てもいないのに、私がマスカットを食べたことに気づいたの?
ホント、どこに眼がついてるんだか。
マスカットを1つ手に取り彼の口元に運ぶと、表情一つ変えずに私の指ごと……。
何事もなかったように振舞ってはみたが、
指先に感じる唇と舌先の感触に身悶えてしまった――――。