「んっ……」
胸いっぱいに空気を吸い込んで両手を伸ばす。
久々に熟睡出来た気がする。
彼女が手に届く距離にいるというだけで、
こんなにも安心出来るんだと再認識した。
俺は彼女を一晩中抱きしめていた。
別に俺らに何かあったという訳ではないが、心は満たされている。
こんなことなら、もっと早くこうすべきだったか。
そんな贅沢なことをふと考え、思わず笑みが零れた。
そういえば、彼女と一夜を共にしたのはこれが初めてな訳じゃない。
正式に言えば、昨夜が2度目。
初めて彼女と同じベッドで寝たのは、
彼女が男に扮して俺の護衛役としてこの家に来た時。
24時間一緒にいるからにはそれなりに知っておいた方がいいと思い、酒に誘った夜のこと。
まさかまさか、酒に飲まれた奴を介抱するとは思いもしてなくて、
挙句の果てには、ベッドへ運んでやったのに、
それが何らかのスイッチを入れてしまったことで、
一晩中羽交い絞めに遭ったっけな。
何だか、遠い昔の話のようだが、まだ1年ちょっとしか経ってないのか。
彼女との再会が、あんな形だったことに頬が緩まないはずがない。
思わず、その張本人からあの時のことを聞きたくなって手を伸ばしてみたが……。
「希和?…………希和っ」
両手を四方八方に伸ばしても触れるどころか、
彼女がいたであろう場所がひんやりとしていることに衝撃を受けた。
俺は思わず起き上がり、部屋を後にした。
「あっ、おはようございます。今起こしに行こうと思ってたところです」
「何をしてるんだ?」
「はい?………何って、朝食の準備ですけど」
彼女は俺がプレゼントしたエプロンをして、珈琲を注ぐ。
まだまだ病み上がりで顔色が良くないのに、
今まで通りに家事をこなしていた。
しかも、久しぶりということもあり、
今朝の朝食は少し豪華な感じがするのは気のせいではないだろう。
彼女なりに腕を振るったのだろうが、それが申し訳なくて胸が苦しくなった。