オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ



あっ、あの人知ってるわ!

先日、Billboard Hot 100(シングルチャート)で1位を獲得し、

全米で今一番注目されている天才ジャズシンガーの『みとさき』さんだ。

確か、本名が美戸冴姫(みとさき)で、

日本人だという事を誇りに思っているから

アーティスト名をひらがなにしているって、

つい何日か前にテレビで観たもの。


今話題の人が目と鼻の先に……。

京夜様を護衛しなければならない緊張感すら一瞬で掻き消されるほど、

ミーハー気分で見惚れてしまっていた。


誰もが魅了されるその歌声に会場中の人々が酔いしれる。


鍵盤から静かに下ろした手はゆっくりと重なり、深々とお辞儀をした。

すると、次々と拍手が沸き起こり、気付けばスタンディングオベーションに。


『素敵な歌声でしたね』

『あぁ。久々にいい時間を過ごせたな』


不意に絡まる彼との視線。

少し離れた場所にいても、心と心で繋がっている。


京夜様の琴線にも触れたようだわ。

良かった、私と同じ感性で。

ううん、違う。

彼女の歌声は万人の心を魅了するのよ。

それは、京夜様も例外じゃないって事。

そんな些細な事が嬉しくて、思わず笑みが零れると。

ん?

突然、京夜様は近くにいた女性スタッフに声を掛けた。

離れている為、何を話しているのか分からない。

だけど、京夜様から女性に声を掛けるなんて……。

一体、何を話されてるのかしら?


話し終えた彼と当然視線が合う。

だって、私はずっと彼を見てるんだから。

だけど、何事もなかったように誤魔化され

何だか、やんわりと交わされてしまった。


駄目よ、希和。

今は彼の護衛に専念しないと。

彼の身の安全が一番なんだから。

要らぬ嫉妬心を振り払って、私は再び気を引き締めた。