オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ



「希和、俺の傍から離れるなよ?」

「………はい」

「式が終わり次第、出国手続きをするから」

「………はい」

「これが、独身最後の仕事だな」

「………はい」

「おい、聞いてるのか?」

「………はい、………はい?」


希和は昨日から様子がおかしい。

まぁ、理由は分かっている。

今日は国際線の新ターミナル増設に伴う竣工式が行われる。

俺と彼女はその式に参列する手はずになっているのだが……。

婚約後、初の公式の場とあって、彼女はかなり緊張している。

俺の話にも空返事で、膝の上でぎゅっと握りしめられた両手が小刻みに震えている。

時折深呼吸する姿が本当に可愛らしくて……。

険しい表情の彼女と正反対で、俺は楽しくて仕方ない。

俺は根っからの性悪男のようだ。


「大丈夫だ。いつものように俺の傍にいればいい」


彼女の手に手を重ね、優しく包み込む。

今は彼女に何を言っても耳に入りそうにない。


昨日の午前中はいつもと何ら変わらぬ様子だったが、

昼食から戻った後から急におかしくなり出した。


不意に物思いに耽ったり、時々怯えるような顔つきになったり。

初めての公の場だから、今日さえ乗り切れば何てことない。


小さな子をあやすかのように

俺は彼女の手を優しく撫でていた、その時。

ジャケットの内ポケットに入れてある携帯が震え出した。

『1時間ほど前に自宅を後にし、先ほど駐車場P2-Sに到着しました』

メールを確認した俺は、正直動悸がした。

とうとう来る時が来たのだと……。