あっという間に結婚式を間近に控え、御影百貨店は夏商戦に追われていた。
毎日目まぐるしく仕事をこなし、
最近は御影ホールディングス(百貨店を含むグループの本社)の経営も任されるようになっていた。
父親は新しい事業を始めるにあたって、
提携先(海外)の本社へ出向く日々が続き、
俺はますます忙しくなっていた。
「京夜様、来週行われる竣工式の式次第が届きました」
「ん、後で見る」
「当日のお衣装ですが、私の方で準備しておきました」
「ん、………悪いな」
「いえ」
今までなら新調するスーツにしたって、
本店に出向くか、会社や自宅に呼んで決めていたのだが、
今はそれさえも時間が惜しい。
希和は俺の事を誰よりも知っている。
仕事の上でもプライベートでも。
俺が指示する前にいつだってこなしてくれて。
今の俺にとって、なくてはならない人物だ。
書類の山に囲まれ、ひたすらパソコンと格闘している俺の脇に
そっと静かに珈琲の入ったカップを置き、
何事も無かったかのように踵を返し部屋を後にする希和。
無駄な会話さえも省いてくれるその心遣いに頭が上がらない。
自宅にも仕事を持ち帰り、食事の時以外書斎に籠りっきりの俺に
一度も愚痴や文句を言った事がない。
いや、違う。
俺が少しでもスムーズに決済出来るように
事前に稟議書をチェックして、修正箇所が無いか、
毎日神経をすり減らしている事を俺は知っている。
そんな心遣いにさえ、感謝の言葉一つ掛ける事さえ忘れてしまって……。
ふと、彼女が淹れてくれた珈琲を口にして
改めて彼女の存在がどれほど大事なのか、思い知らされていた。