行きつけの料亭『風月』で夕食を摂る事に。

向かい合わせで座り、女将が淹れるお茶を口にすると、

メニューに無い“料理長お任せ”の料理が次々と運ばれて来た。

色とりどりの旬の食材が並び、食欲をそそる香りを纏い、白い湯気が姿を見せる。


「ごゆるりと…」


女将の仕草一つ一つが上品で、いつ訪れても心地よくしてくれる。

私が今一番目指したい姿が此処にあった。

深々とお辞儀し、部屋を後にする女将に視線を奪われてると。


「希和?」

「あっ、はい!」

「冷めるぞ?」

「はい、戴きます」


薄焼き玉子が破れずに綺麗に出来たような。

くすんでたシャツが真っ白に洗い上がったような。

アイラインが1度で綺麗に描けたような。

長年行方知れずのピースが見つかり、

漸くパズルがピタッと嵌ったような、そんな気がした。



そうよ、そうなんだわ。

御影が世界に名高い名家であるからと言って、

ハリウッドスターのような振る舞いをしなければならない訳じゃないんだわ。

私が主役なのではなく、あくまでも主役は京夜様なんだから。

私は華に添える葉に徹すればいいだけの事よ。


「京夜様、ふきのとうの天ぷら、美味しいですね」


心の枷が漸く外れた瞬間だった。