「少し風に当たってくる」
「あ、はい」
彼はグラスをテーブルに置き、ゆっくりと腰を上げた。
そして、2月という寒い季節なのにテラスへと……。
しかも、軽く右手を上げたから、“暫く一人にしてくれ”という合図を。
何か、考える事でもあるのかしら?
彼は自身の悩みを他人に打ち明けるような人じゃない。
私が聞いたところで、素直に答えるとも思えないし。
こういう時は、そっとしておくことしか私には出来ない。
ガラス越しに彼を眺めながら、彼が淹れてくれたホットはちみつレモンを口にする。
5分が経ち、さらに数分が経った。
もうそろそろいいんじゃないかしら?
身体が冷え切って風でも引いたら大変だわ。
私は居てもたっても居られず、テラスへと出た。
「京夜様?もうそろそろお戻りになられては……?」
「………」
彼は無言のまま微動だにせず、夜空を見上げている。
「……京夜様?」
ゆっくりと彼の傍に歩み寄り、そっと彼の顔を覗き込むと。
「ッ?!」
「寒いから」
「私は大丈夫ですから……」
「いいから、じっとしてろ」
「っ…………はい」
彼は自分が着ていたカーディガンを脱ぎ、それを私の肩へと。
そして……。



