「失礼」
彼は軽く会釈して、その場を後にした。
そして、皆の視線をも物ともせず、真っすぐと………。
「久しぶりの友人達と、………楽しめたか?」
「あっ………はい」
いいえ、いいえ!!
楽しめるもんですかッ?!
あんなど派手にやられた方にしてみれば、楽しむどころか、
冷汗が出まくりでどうしていいのか途方に暮れるのが当たり前でしょ?!
でも、この人にはそんな事言ったって通用しない。
なんせ、庶民の同窓会自体が理解出来ないでしょうから。
私が喜ぶと思ったのかしら?
それとも、同窓生達に気を遣って??
彼の考える事が私には理解出来ないかも。
しかも、彼の背後から物凄く鋭い視線が……。
苦笑しながら小さく頷くと、柔和な表情の彼の手がそっと頬に添えられた。
「こんなに冷たくなって……」
彼の優しさと相反するように、冷たい視線が全身に突き刺さる。
その場を一瞬にして凍り付かせる彼の言動。
何もかもが非現実的なんだけど、これが現実。
「彼女がお世話になりました」
彼はゆっくりとした口調で挨拶し、丁寧にお辞儀した。
皆の視線が注がれる中、無駄な動きなど一切ない所作で車へとエスコートする。
「足下、………気を付けろ」
「っ……はい」
私は彼に気付かれぬように小さく溜息を零した。



