別に彼女を泣かせたい訳じゃない。
彼女が選んでくれた服が気に入らない訳でもない。
むしろ、嬉しいくらいなのに……。
それよりもさっきの光景が目に焼き付いてしまって。
情けないほどに、あの店員に嫉妬してる自分がいる。
「謝る必要はない」
「でも……」
「俺の方こそ、苛ついて悪かったな」
「いえ、私が試着室を離れたのが悪かったので……」
肩を落とし、俯き加減の彼女。
彼女にそんな顔をして欲しい訳じゃない。
俺は彼女の手から荷物の入った紙手提げを取り上げ、
空いた彼女の手をギュッと掴んだ。
「喉が渇いた。珈琲でも飲みに行くか」
「………はい」
「じゃあ、案内しろ」
「はいっ!」
俺が笑顔になれば、彼女も笑顔になる。
きっと、彼女の事だから
俺が気分を害した事を悔やんだに違いない。
俺が勝手に嫉妬したというのに……。
カフェでお茶をした後は
気を取り直して、ショップ巡りを再開させた。
「京夜様!このコートをお揃いで買いませんか~?」
「え?」
「ね?そうしましょ?!で、これ着て散歩でもしましょうよ~♪」
「フッ、好きにしろ」
「約束ですからねぇ?」
彼女は嬉しそうにコートに手を伸ばした。



