「俺の女は安くないんでね………気安く触らないで貰えます?」
「っ……」
俺は店員の耳元で2トーン下げた声音で囁いた。
希和にセールストークしてた男は
彼女に眼鏡を掛けさせながら鏡を覗き込む彼女の隣りで、
さり気なく彼女の腰に手を置いていた。
俺でさえ、彼女に触れる度に緊張してるってのに
どこの誰だかも分からないような男が触れるなんて以ての外!
俺は試着室から持ち出していた自分の服を彼女に渡し、
それと一緒に財布も手渡して……。
「これ着て帰るから、支払って来い」
「はいっ!すみません、お会計を……」
「あっ、はい、只今!!」
俺は視線も合わせず、腕組みして待つ事にした。
支払いを終えた彼女がハサミを手にして戻って来た。
「京夜様、すみません。直ぐに値札を取りますね」
「ん」
彼女は申し訳なさそうに服に付いている値札を取り、
ハサミを店員に返しに行った。
ショップを出ても苛々が治まらず、
俺はいつものスピードでスタスタ歩くと、
「んッ?!」
不意に腕を掴まれた。
「きっ、京夜様っ………ごめんなさい!」
その声に反応するように振り返ると、
希和が今にも泣きそうな顔をしていた。



