「京夜様、お釣りです」
「お前が持ってろ」
「………はい」
京夜様は小銭を持ち歩かない。
というより、現金を殆ど持ち歩かない。
常にカードが使えるお店か、もしくはつけが利くお店ばかり。
こうして彼が現金で買い物をするのは、ある意味特別。
こんな風に私に合わせてくれる事に嬉しさが倍増して行く。
食事の際に調べておいたシネマスケジュール。
ちょうど頃合い的にもピッタリの時間。
私達は映画館へと向かった。
「京夜様」
「ん?」
「先にお手洗いに行って来てもいいですか?」
「ん、行って来い。先に券を買っとくから」
「はい」
私は入口脇にある化粧室へと。
再び彼のもとへと戻ると………。
彼の周りには綺麗なお姉さん方が数名。
恐らく、逆ナンパされているようだ。
彼は両手で飲み物とポップコーンと思われる箱を手にして、
今にも罵声を浴びせるんじゃないかというくらい顔が引き攣っている。
……恐らく、限界は近い。
私は慌てて彼に駆け寄り、
「お待たせっ!……………(致しました)」
語尾は声に出さず、雰囲気で伝えた。
だって、その方が待ち合わせっぽいし
お姉さん方に牽制する為にも……言葉は大事よね?



