「京夜様、大丈夫ですか?」
「あぁ、心配ない」
希和が俺の顔を覗き込むように視界に現れた。
俺よりも彼女の方が心配そうにしている。
「希和」
「はい?」
「今夜はどこかに食べに行こうか」
「………はい」
俺の言葉に反応するように、ほんの少しだけはにかむ彼女。
出来る事なら、この百貨店内を
彼女と手を繋いで歩き回りたいくらいだ。
『彼女は俺のモノだから、誰も近づくなよ?!』と。
そんな事を脳裏の片隅で考えていると、
あっという間に取材の時間が訪れようとしている。
天宮凪彩に一瞬視線を向けると、
重役の1人からペットボトルを手渡されていた。
その表情はあからさまに怪訝な顔つきだ。
そんなやり取りを横目に見ていると、
「専務、そろそろ宜しいでしょうか?」
「あぁ、今行く」
「お願いします」
再び長谷川の合図に小さく息を吐く。
すると、凪彩に声を掛ける三浦の姿が視界に入った。
取材場に向う彼女の為にペットボトルを受取り、
優しく笑みを浮かべ、彼女を送り出そうとしている。
そんな男の表情に釣られるように、
凪彩は俺が見た事の無い『女』の顔をしていた。



