あっという間に家に着いてしまった。



「今日はありがとう。お父さんとお母さんによろしくな」

運転席からケンが言う。



「うん。お仕事頑張って」




こうしてまたいつも通りの生活に戻ってしまった。






「ただいま」


リビングには録り溜めてあったドラマを見る母の姿。




「おかえり」



「今日ケンの会社行ってきた」


母の背中に話した。


すると母は驚いた様子で振り返った。




「どうだったの??」


あんなに否定的だったくせに、興味津々の様子。



「高ーいビルだった。全然小さな会社なんかじゃなかったよ」


「そう。若いのにすごいわね〜」




「うん。それと、まだしばらくは一緒に住まない」

「どうして?」

「仕事が忙しいんだって。来月はアメリカに出張って言ってた。だから落ち着くまではここにいさせてね」

「それは構わないけど…」



「あと、私仕事辞めるから」



母の返事を待つ前に、自分の部屋へと移動した。







母に何か言われるのが怖かったわけじゃない。

自分のこれからのことを、母に話すのがつらくなっただけ。





好きな人と結婚して、幸せなはずなのに。



夫婦なのに一緒に住めないこと。
今後も変わらずなかなか会えないこと。



私の求めていた結婚とは大きく異なっていた。