「こちらが妻のちえです」
いきなり紹介されて驚いた。
「ちえ、一言」
ケンが耳打ちし、マイクを渡された。
「ぇ、えっと、あの…どうぞよろしくお願いします!」
再び拍手が起こった。
マイクを返して、ケンが最後に一言挨拶をしてオフィスを出た。
エレベーターに乗り、やっと肩の荷が下りた。
「ふぅ…」
私が一息つくと
「緊張しすぎ」
とケンがニヤニヤしてきた。
「だっていきなりマイク渡されてさ、人前で話せって言われても無理でしょ!緊張しない方がおかしいよ〜」
「あれ、社内放送で流れてたからね」
「えっ!?社内放送!?」
「そう。社内放送。」
「ど、ど、ど、どういうこと!?」
焦り過ぎ、とまたケンが笑った。
「あのマイクを通して、社内全体に流れてたんだよ。他の階の人たちも、ちえの声聞いてたってこと」
いたずらっぽく口角を上げるケン。
「うそでしょー!!!」
「ほんと」
あんな恥ずかしいのを聞かれていたのかと思うと、また恥ずかしくなってきてしまった。
「ケンの意地悪ぅ…」
ケンは笑いながらエレベーターを下りた。
