「だけど、実際みんな心配してたんだよ。
杏子と喧嘩してる時の一くん、珍しく凄くイライラしてたし」
「そ、そうだったんだ……」
「一くん、本当に杏子のこと気にかけてるんだなって思ったよ」
それは……抱きしめてくれた、あの逞しい腕から痛いほど伝わってきた。
それにしても、斎藤さんの腕の中、なんだかとても落ち着いたな……
その時のことを思い出し、私は顔が赤くなるのを感じた。
「杏子、どうした?顔が赤いよ?」
「っへ?!な、なんでもないっ!」
慌てて両手で頬を覆い、顔を隠す。
……あの夜のことを思い出すと、ドキドキする。
それに、ここ何日かでは斎藤さんと目が合ったり、名前を呼ばれただけでもドキドキすることがあるし……
理由は分からないけど……
どうしちゃったんだろ、私……
「おお、藤堂ではないか」
「ゲ、芹沢さん……」
平助くんが苦虫を噛み潰したような顔をしていると、前から大股で芹沢さんが歩いてきた。