天狗娘は幕末剣士



グッと斎藤さんが息を呑む。




「斎藤さんの前で斬られたけど、ちゃんと生きてます」




「お前……」




驚く彼の手を、私は自分の頬に当てたまま、両手で優しく包み込んだ。




「私、あなたの前で絶対に死にません、絶対に」




「っ……」




「約束します、だから……」




私は真っ直ぐに彼を見つめた。




「信じて、ください」




そう言った直後、夜の秋風が優しく私達の髪を揺らした。




暫くの沈黙の後、斎藤さんは小さくため息をついた。




「まったく……どうしてお前は、そう無茶をするんだ」




「えっ、す、すみません……」




「年頃の娘が、顔に傷までつくって……」




そう言うと、斎藤さんはそのまま私を抱き寄せた。




「えっ……!」




耳に押し当てられた彼の胸から、トクトクと心臓の音が聞こえてくる。




規則正しい斎藤さんの音とは違い、私の心臓は早鐘を打っていた。




「杏子」




「は、はい」




「……ありがとう」




「っ!」




思わず、斎藤さんの顔を見上げると、彼はとても優しい顔をしていた。




もう私を見る目に、あの哀しみの色は無くなっていた。




「俺は、お前を信じる、だから絶対に死ぬなよ」




「はい!」




秋の月光が、私達を優しく照らしていた。