「杏子、逃げなさい」
「え……?」
お母さんの顔を見上げると、彼女は私の目を見て優しく笑った。
「生きて、杏子」
「お母さん……?」
「うおおおお!」
もののけが雄叫びを上げて、刀を振り上げた。
「行きなさい!杏子!!」
そう言って、お母さんは私を突き飛ばした。
そして……
――ザシュッ!
もののけは、刀でお母さんの左胸を貫いた。
「お母さんっ!!」
「っあんず……」
かすかに動いたお母さんの唇に、私はビクッと肩を振るわせた。
「逃げ、なさい……」
「っい、嫌……嫌よ……お母さんも一緒に……」
すると、お母さんの胸から刀が引き抜かれ、私に向けられた。
お母さんは、ドサッとその場に倒れた。
「っひっ!!」
「お前も、殺す」
「あっ……あ……」
その時、もののけの足首をお母さんが掴んだ。
「お母さん……」
「あんず……早く……」
「っち。
まだ息があったのか、この女」
そう言うと、もののけは彼女の背中に刀を突き刺した。
……お母さんは、動かなくなった。
「っう……うわああああああ!!」
私は、すぐにその場から逃げ去った。
燃える里の中を、ただひたすらに走りぬけた。
恐怖と悲しみで気持ちが混乱し、ただただ叫び続けながら、私は里から逃げ出した。