「その娘、遠野杏子は人間ではない」
「なに……?」
「ここより遠く離れた、天狗一族の里から逃げ出した唯一の娘だ」
「っ!」
やっぱり……!
やめて……それ以上、言わないで……!
そう言いたいのに、怖くて声が出ない。
私の体が小さく震えだす。
「そこにいる娘は純血の女天狗だ!
我々と同じ、もののけなんだよ!!」
その言葉に、周囲の人々がざわつく。
「もののけ?あの子が?」
「まさか。
もののけの言うことだ。
嘘に決まってるだろ」
ドクンッドクンッと心臓が大きく脈を打つ。
今はまだ、もののけの言うことを信じている人はいないみたいだけど……
もののけは、人間の敵だ。
もし誰か1人でも、もののけの言葉を肯定する人が現れたら……
私は……殺される……?
「言いたいことはそれだけか?」
「え……」
斎藤さん……?