「……杏子は、どんな相手だろうと、命を奪う様なことはしない。
あいつは、とても優しい人間だからな」
彼女の言葉と行動は、いつも誰かを思っていた。
そんな温かい心の持ち主が、簡単に人を殺すわけがない。
そう思って白竜を見上げると、丁度白竜もちらりとこちらを見た。
「人間ではない。
あいつはもののけだ」
「言っただろう、杏子は……」
「俺は心の話をしているのではない。
お前、あいつの本来の姿を忘れていないか?」
「なに?」
すると、突然ドンッという大きな音がした。
音のした方を見ると、風狸が地面に仰向けに倒れていた。
「ぐっ……あっ……」
苦しそうに声を上げる風狸。
次第に風は弱まっていき、杏子は風狸にゆっくりと近付いて行った。
「人間、あいつは天狗だ。
れっきとした、もののけだぞ」
冷たい声で、白竜はそう言った。


