「杏子……?」
杏子を探して、ここまで来た俺は少し離れた木の影に身を潜めていた。
そこから3人のやり取りを見ていた訳だが……
先程、杏子が口にした言葉に耳を疑った。
“殺す”
彼女は確かにそう言った。
いつも穏やかで優しい、あの杏子が、そんな事を言うなど信じられん……
彼女は、殺気を体中から溢れさせ、敵と対峙している。
今、あそこにいるのは本当に俺の知っている杏子なのか?
「ハッ、とうとう本性を現したな?」
「あなたが……お母さんを……許さない……!!」
そう言って、ギッと風狸を睨む杏子。
すると、ため息をついて、白竜が風狸に言った。
「俺は知らないぞ。
天狗を本気にさせたのはお前だ。
お前がカタをつけろ」
「おうよ、任せとけって白竜さん」
白竜が退くと同時に、風狸は刀を抜いた。