俺、良平は実は演劇部に所属している。




だからか、自分の気持ちを隠すのは上手いと思ってた。だから、中学の時も演劇部で高校でも続けている。





杏ちゃん、俺の好きな子。




彼女に俺の気持ちはバレたらいけない。って掟を自分で勝手に作って、勝手に実践してる。




何故なら、彼女は叶わない恋をしてるから。いや、叶うかもしれないのに叶えなくしてる恋…という方が正しいかもしれない。




見守っていたいと思ってたのに、俺は昨日彼女にキスをしてしまった。




たまに2人で帰る日もあるけど、ヘタレだから手を繋いだことはない。こけそうになったから手を掴んだことはあってもすぐ離してしまった。





なのに、昨日…




俺のしょうもない恋の話を聞いてくれてた杏ちゃんが、いつも気にもしない態度で受け流しているのに、昨日は気にしてくれたから。





杏ちゃんが俺の目を見て質問してくれたとき、ちょうど夕焼けが杏ちゃんの目に映って…




1種のオレンジゼリーでこんなのありそう。と思ってたら髪にキスしてた。





唇にしそうになってたのを、慌てて変更して髪にした。




後から調べてみたら、髪へのキスは思慕らしい。絶対にバレた。





でも、俺は演劇部やから…嘘は上手いはずや。





今は、2時間目と3時間目の間の休み時間。俺の学校は3時間目と4時間目の間が昼休みやって、昼休みは杏ちゃんは花梨ちゃんとご飯を食べるから話せへん。




やから、話すのは今しかない。昼は、杏ちゃんはいっつも花梨ちゃんのクラスに行ってまうから…




追いかけていけばいいんやろーけど、俺は花梨ちゃんが少し苦手やから、今しかないのは確か。





行ったるで、おr「ねぇ、良平くん。」





…決意した直後の不意打ちはやめてほしい。切実に。





声のした方を見ると、杏ちゃんがおった。杏ちゃんは少し頬を紅くして俺の前に立ってた。





「どないしたん?杏ちゃん。」





ほんまは、話しかけて来た用件なんて知ってんねんけど少し意地悪したくなった。




杏ちゃんはハムスターみたいやから、たまーに意地悪したくなる。





案の定、少し紅かった頬がもっと紅くなり、えぇと。ってどもってる。




こんな姿を俺だけに見してくれたという優越感に浸りながら俺は彼女の用件に答えることにした。




「あれやろ、昨日のことやろ⁇
あれなー、俺今度眠れる森の美女の王子様やんねやー。で、キスシーンあるやん終盤で。あそこは髪にキスに変更されたから、杏ちゃんに試しちゃってん、ごめんなぁ。」





しっかりと杏ちゃんの目を見て、ゆっくり話した。





きっと杏ちゃんは騙される。





ここに花梨ちゃんがいたら騙せないんだろーなと思いながら、彼女の返答を待った。





「そ、そうなんや。良かったぁ…。
本気やったらどないしよ思って…私自意識過剰やなぁ。」





杏ちゃんは本当に安心した様に言った。






笑え、いつもの笑顔や。





杏ちゃんが求めてる良い友達の良平くんを演じるんや。





「誤解させてごめんな。自意識過剰とかちゃうよ、俺の行動が悪いわー。」




安心させる様に、でも俺の好感度をあげるセリフを言う。





こんな下心ありありのセリフに彼女はいつも全力で返してくれる。
心からのセリフを。





「うぅん、よく考えればお芝居の練習ってわかるもん。良平くんは気にせんとって‼︎私も気にせぇへんから。」





にこって効果音が付きそうな笑顔で杏ちゃんは俺に言った。





やっぱり、杏ちゃんは俺を傷つける。やのに、俺に甘い甘いミルクチョコレートの様な気持ちをくれる。





「まぁ、この件はこれで終わりってことで‼︎俺、次の授業の教科書忘れたから惷に借りてくるわー。」





これで、この話はおしまいや。





彼女の中の俺は、やっぱり良い友達らしい。これで、少しでも意識してもらえると思ってんけどなー…




「おい、人のクラス来て何ぼーっとしてんだよ。」





目をまんまるくして尋ねてくる惷。





こいつに八つ当たりしたい気持ちを抑えて俺は言う。





「可愛い子が俺にミルクチョコレートをくれてん。」





正しくはミルクチョコレートの様な気持ちと苦いビターチョコレートも少々やけど。





「へぇ、良かったやん。これでいい⁇教科書。」





どうでもいいという感じで惷は教科書を渡してくる。





俺はこいつに勝てたことは1度もないな…と惷の顔を見て考えた。





「ねぇ、もうちょっとでチャイムなるけど、良平くん。」





鈴のように高い声が俺の横から聞こえたと思い横を向くとーーー





俺の苦手な花梨ちゃんがいた。





惷の方を見てみると、あいつは頬を少し紅く染めていた。





きっとーーー





俺は反対に赤くなっていたんだろう。