人間には三大欲求がある。





それは誰でも知ってること…常識でもある。




食欲、睡眠欲、性欲。




自分では特に何が強いとか、そういうのは意識せん。というか、特定の1つが強い人って中々おらんと思う。





そんなことを私は今、クラスメートであり良きお友だち関係の咲坂 良平(さきさか りょうへい)くんに語られた。




私たちは、高校2年生だ。1週間前に春休みが終了した。私の名前は逢坂 杏(おうさか あんず)だ。




「てことでさ、俺は別に性欲が強いわけでもない。やねんけど、すっげー彼女が欲しい。」




彼はいつもにやにやしてる顔をきりっとした顔にして話しているつもりなんだろう。




言っちゃ悪いけど、まったくきりっとしてない。にやにやしながらドヤ顔してるよーなもんだ。気持ち悪い、正直。




「彼女欲しいって言うのは、前から聞いてる。その度にこの質問を言ってるよね。好きな人はいないの⁇」




私は良平くんに何回も、彼女が欲しい。って言われてるしその度に女好きではないって言われてきた。




そして、私がいつもの質問をしたら彼は決まって、気持ち悪いにやにやした顔から優しい暖かい笑顔になる。




「いや、まぁいないことも、ないんだけどさぁ…告白する気はないしー…」




これもお決まりの返答。




ここまでは、いつもの会話だ。




この後、私が大概知らんがな。って言って無視して帰る。でも今日は、そんな気分ではない。




「その、さ…。いっつも告白する気はないって言うじゃん⁇それは、何でなの⁇…振られるのが怖いとかそういう理由なの⁇」




実際、いつもはしない質問だ。




良平くんは、豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔をしてる。




相変わらず顔に出る人だ。きっと良平くんが好きになる子は表情筋が柔らかい人なんだろう。




勝手な妄想というのは、1度考えたら止まらなくなるもので…彼の好きな人はきっと長い髪で唇がプルプルで…マニキュアとかしちゃってる様な子なんだろうなぁ…って自分で想像して笑ってしまう。




お似合いすぎてやばいわぁ…




そんなこと考えていると、すごく可愛らしい顔した良平くんの顔が目の前にあった。




「…杏ちゃん、もしかして気になってる⁇」




気になってるというか、私は一応良平くんと1番仲が良い女子だと思ってる。




現に、良平くんは私以外に好きな人の話はしてないらしいし。




私は、良平くんの好きな人を見極める必要があると思ってる。女の性格を見抜くのに1番適してるのは女だ。男でも鋭い人は鋭い。でも良平くんは鈍い人の中でも鈍い。




そんな小学生みたいな友達の恋を手放しでは喜べない。




私は、いわゆる彼の学校での保護者っていう立ち位置だから。




「…気になる。すっごーーーく気になる。」




人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえって感じの言葉があったように邪魔しちゃダメだと思って聞かなかったし、聞けなかった。




けど今は、良平くんが気になる⁇とか自意識過剰を発揮してるからチャンス。




好きな子がわかったら、こっちのもん。
私が良平くんの恋を応援するからね…




「な、何で気になるの…。」




良平くんはすごく紅い顔で尋ねてくる。




こんな真剣に話してるんだから、私もいつもみたいに適当に返すのではなく真面目に返さなければいけない雰囲気だ。




「…正直言って、良平くんの好きになる子だから良い子だとは思うの。でもね…」




私は良平くんの手を握る。




「でも…私は良平くんの保護者みたいな者だから、変な女にひっかかってほしくはないの‼︎心配なの‼︎」




…言い切ってやった。




良平くんは、顔を赤くしている。
この顔は怒っているというか、拗ねてるときの顔だ。
何かまずいことを言ったかな。




「杏ちゃん、髪の毛綺麗だよね。」




良平くんがいきなり、私の長い髪に触れながら言ってきた。
机に顔を向き合わせて座ってる体制なので髪の毛が引っ張られて正直痛いうざい。




「良平くん。いきなり何?」




このムードで聞いていいのか少し悩んだけどいいと思う。
どうせ良平くんだし。




「ちゅ。」




…‼︎




いきなり髪にキスをされ私は声が出ないほど驚いた。




キスをされたってことにもびっくりしたが、良平くんが好きな人がいるのに何で
…っていう驚きの方が大きかった。




「いきなり…何なのよ。」




我ながらすごくドスが効いた声だ。
この声だけならあっち系の人でもいけるんじゃないかって真面目に思った。




「これで、わかってくれたかな⁇
期待してる、ほな。」




ゆったりした動作で彼はドアまで近づき帰ってしまった。




私は質問にも答えられてないという事も忘れて、紅くなった頬をぎゅっと包み込むことしかできなかった…。