遡る事、一週間前。

亜紀はバイトを終え、帰宅した。
壁掛け時計に目をやると、午前0時15分を指していた。

《はぁ、もうこんな時間かぁ。洋平に電話したら怒られるかなぁ…》

その日は亜紀の誕生日だった。訳あって恋人の洋平とは過ごせなくなり、ヤケクソ気味でバイトを入れたのだが、どうしても洋平の声が聞きたくなっていた。

亜紀のバイト先は隣町のレストラン。
ホールで働いている。

大きな店ではないが、レトロな雰囲気がただよう店だ。

大学一年の秋から始めたバイトで、もうすぐ一年になる。

大好きな洋平との出会いもバイト先だった。

洋平は亜紀とは違う大学に通う同い年。公認会計士志望で、専門職大学院の学費のために亜紀よりも2ヶ月先に入店し、厨房で働いていた。

背が高くて、笑うと八重歯がキュートな洋平に亜紀は惹かれていった。

洋平も亜紀の真面目で素直なところに惹かれていった。

出会って二週間で二人は付き合い始めた。