【晃太side】
新しい家の生活にもだんだん慣れてきた。
家、というより部屋か……。
ご近所サンの初めてのあいさつで、
何か……普通の人と違う女の子。
周りの人達は騒いだりするのに、全然騒がない女の子。
この子と話すのは……結構楽しい。
でも、少し壁を感じる。
そして、たまたま夕飯を一緒に食べた。
あ、透先輩も一緒に。
その日に食べたハンバーグ。
今までで一番美味しい食べ物に感じた。
その子の名前は、篠崎……菜美…。
変に飾った感じのない、普通な子。
見た目がすごく可愛い訳じゃない。
でも、自然な笑顔は、可愛い。
色々と話しているうちに、
“菜美”と呼ぶことを決めた。
菜美は、俺のことを“大狼君”そう呼んだ。
仲良くなれた気がした。
でも、
帰ろうとした時、満月が目に入ってしまった。
最悪だ……。
なんでかって……?
俺は、オオカミ男だから。
せっかく仲良くなれたのに……こんな事ってあるのか?
気づかれないように、しゃがんでみる。
バレたら、話してくれなくなる。
怖がるに決まってる。
きっとそうだ、菜美だって。
少しした後、なぜか菜美までしゃがんだ。
……え?
なにやってんだよ……。
『大狼君?どうしたの?』
そう言って、俺の顔を覗いてくる。
その後、菜美の目は俺の頭、体に向けられた。
……バレた…?
多分、バレた気がする。
菜美だって、言い伝えぐらい知ってる。
この町には、そんな話があるから…。
1日も一緒には居なかったけど、
すごく楽しかった。
でも、もうあんなに楽しくはできない。
バレてしまったから。
何を言われるんだろうか、
あの時みたいに……。
『………見ちゃった?』
震えているんじゃないかって声。
お願いだから、気づかないでいて。
この声にも、聞こえないフリをしていて。
返ってくるものが怖い。
あの時と、重ねて見てしまう。
菜美は……あの人とは違うのに。
あの時と、同じくらいにきれいな満月。
あれ、なんかぼやけてくる。
俺って……こんなに弱かったっけ……。
様子を伺うかのように、菜美を見てみた。
すると、小さく頷いていた。
………分かっちゃうよな、だよな。
あの人には、小さなウソをついたけど、
菜美には、本当のことを言おう……。
『…………俺、オオカミ男……なんだよ…』
あの人には、“オオカミ男”だなんて言ってない。
菜美が信じてくれるかなんて、
分からないはずなのに。