「えっと…菜美ちゃん、状況分かってる?」
「ま、全く分からないです……」
「あのさ、菜美って言い伝え最後まで知ってる?」
「最後までは……知らないけど……」
あんまり信じたくないし……
めんどくさいから聞いてなかったかも……。
「じゃ、帰りに全部話すから、とりあえず練習再開するか!」
「そうだな~…」
ふぁぁ、と大きなあくびをして階段を降りていく。
「俺あんまりやりたくないんだけど……」
「俺だってやりたくないですよ……」
多分、固まってるのを元通りにするには何かをしなくちゃいけないみたいで……
それが、すごく嫌なんだと思う。
「次はやるから、今回は晃太やって!」
「……絶対ですからね?……ふぅ……。」
必死に頼み込んでる木戸先輩に、
やれやれ、と言うように大狼君は息を整えて、丸いものを見つめてる。
そして、風なんか通らないようなこの場所に、
飛ばされてしまいそうなくらいの強風が吹いた。
急な風に閉じた目を、ひっそりと開ける。
すると、あの夜に見たオオカミ男が背を向けて立っている。
耳も、尻尾も、風に揺られてる。
そして、息を深く吸い込んだ後、
強く、大きく、深い、声が響き渡る。
遠吠え、とでも言うのだろうか。
それは何かを伝えているように感じた。
長い、長い、遠吠えがうっすらと消えた。
すると、部員達の声がする。
……元通りになったみたい…良かった………。
「大狼君、木戸先輩ありがとう!」
2人のいる方を見て言うと、
いつの間にか、木戸先輩はいなかった。
大狼君は私の声に驚いたみたいで、急いでこっちを振り向いた。
その時……
涙が見えたのは気のせいだった……?
「……あっ、全然!無事で良かった!」
口元は笑ってる、けど……
なんで目を隠すの……?
「あの……大狼君……」
「わっ!危な……っ!」
大きな声に目を瞑る。
怖くて、何かにしがみつく。
音が聞こえる……ボールの音……。
さっきの固まったボールが落ちてきたの…?
でも痛くない…。
なんで……。
「菜美?大丈夫か?」
「………お、大狼君…?」
うっすらと目を開けてみると、そこには大きな大狼君の背中。
じゃあ、私がしがみついてたのは………。
「えっと……そろそろ離してもらっても……」
真っ赤な顔が、後ろを向いてる。
「わっ!ご、ごめんね!」
急いで離して、落ちたようなボールを拾い上げる。
私にボールが当たらなかったって事は……大狼君にボールが当たった?
結構高い所からボール落ちたよね……。
「大狼君っ、痛いよね……っ」
「大丈夫だって!早く片付けるぞー!」
大狼君は“痛い”なんて一言も口に出さずに、ボールを拾って部室まで運んでくれた。
「よし、終わったな!ボール片づけてくれててありがとな!」
「こっちこそ、片づけてくれててありがとう!」
ニコニコとしながら走って練習へ戻っていく大狼君を見つめていた。
なんだか、顔が熱い。
胸が、ドキドキしてる。
多分………暑さのせいだよね………?

