【実梨side】
初めて、先輩と出会ったのは
入学式の日だった。
教室に新品の教科書たちを運んでいる時の事だった。
ひとつひとつに名前を書いたから、右手に力が入らなくて、
不安定なまま、廊下を歩いていた時。
数人の男子の先輩達とぶつかった。
その衝撃で、教科書は廊下にバラバラと落ちていった。
すると、目の前にバスケットボールが落ちてきて
少し筋肉のついた腕が、散らばった教科書を集めていて
書いてあった私の名前を見て
『 “みのり” ちゃん?可愛い名前だね』
そう言って拾い上げた教科書を渡して、通り過ぎて行ってしまった。
落ちたバスケットボールを忘れていたから、その先輩に渡した。
お礼も伝えて……。
『ありがとう、じゃあ……またね!』
きらきらとした笑顔と、かすかな桜の匂いを残していった。
多分、私はこの学年で一番最初に
木戸先輩に恋をしたんだと思う。
名前も分からない人だったけど、
男嫌いの私にとっては、これまでにない優しい人だと思った。