満月の夜は、ご注意ください。




駅前とは違って、人が多くなってきた気がする。



「えっとー、高校生ですか?」



「あ、はい!高校生です!」




よかった……



高校生に見えるんだ……!




「あ!じゃあ俺と一緒ですね!」




「え、大人の方じゃ……」




背も高くて、大人っぽい顔つきなのに?!




「よく言われるけど、高校生ですよ!」



ニコニコしてる。


なんか、見たことありそうなんだよね……。




ま、そんなことないか。


 

「そうなんですか!」



「えっと……君は何高校なんですか?」



「あ、月宮高校です!」 




月宮高校って有名なのかな……。




「そうなんですか、俺はその隣の高校で…“風上高校”ってトコで……!」




「かざかみ………高校ですか…。」




あ、確か制服がカッコいい所だっけ?
 



「あ、じゃあ……友達になりません?」



「もちろん!」




他校の友達とか初めてかもしれない!




「あ、君の名前は?」



「私、篠崎…菜美っていいます!」




小さくおじぎをしてみる。




「………菜美?」




何かを考えてるかのように、言葉が一瞬固まっていた。




「あの……どうかしましたか?」



「や、初恋の子と同じ名前だなって思っただけです!」




あはは、って白い歯を見せて笑ってる。



………誰に似てるんだろ…。




「初恋……ですか!」



「菜美、だから………“なーちゃん”って呼ぶことにする!」



「あぁ………はい…。」





“なーちゃん”


懐かしい響き。




初恋の男の子と同じ呼び方…………。






「そうだ、俺の名前は………」




そう口を開いた。




「菜美っ!」




その瞬間に、大狼君が私達の目の前に走ってきた。




「あっ、大狼君っ!」




「大狼………?」




その、風上高校の人はハッとしたようにビクッとしていた。



………どうしたんだろ?





「ねぇ、この人誰…?ていうか、何してんの?」




大狼君が警戒したように、私に聞いた。




「実梨がいるクレープ屋さんを一緒に探してくれるって!」



「ふーん、って、手!手だよ!!」




私達の手を指さして、怒ったように言った。




「えっ、あっ、ちょ、ちょっと!!」





そういえば、気にしてなかったかも……!



手繋いでた?!





「人多いし、はぐれないようにだけど?」



「………ていうか、誰なんですか」




いかにも怪しい、と言いたそうなオーラを発しながら大狼君。




「もしかして、大狼って…なーちゃんの彼氏サン?」



「……何で俺の名前知ってんだよ?」



「隣の高校だし、有名だから?」



「は?お前大人じゃ………。」



「さっきも言われた!俺、高校生だし!」



得意げに笑ってる………。



「じゃあ何年生?」



「1年だよ、疑ってんのー?」




1年って事は……同い年!!


ますます、初恋の子と共通点が……。



………そんなこと絶対にないけどね!




って、そんなことより!


実梨探さないと!




「えっと………あ、あの、クレープ屋さんってココから行けますかっ?」



「行けるよ、じゃ行こっか!」



ニッコリと笑みを浮かべながら、私の手を握った。


えっ?!




「は、ちょっ、お前っ…!」



「なに、ダメなの?大狼は彼氏じゃないんだったらさ、別に良くない?」



ニヤリ、としながら手に強く力が入る。



ぎゅう……と手が押しつぶされそう…。




「………いた…っ…」




思わず声が出てしまった。




でも、次の瞬間………





「…………俺の彼女だから、やめろ」





落ち着いた優しい声がした。





「えっ、お、大狼君っ………?」





お、俺の………彼女?!





「恋人のフリするか、知らないヤツに手繋がれるかだったら……マシかって思って……」





小さな声で、私に優しく言った。




「え………。」




ふ、フリね………。




「もしかしたら知らないヤツと手繋ぐ方がマシかもしれないけどな!」





そんなこと、ないよ。








「ごめん、今だけガマンして……!」




困ったように笑顔を見せてる。




「…………ふーん、彼女なんだ?」



「そ、そうに決まってんだろ」




焦ってるみたいで、大狼君は顔を逸らした。




「付き合ってんのに手も繋がないんだ?」





「べっ、別に、俺らの勝手だろ……っ」





風上高校の人の、いたずらっぽい笑顔に、大狼君は息を詰まらせた。



なんか……木戸先輩みたいだな……。

  



「とか言って、繋いだこと無いとか?!」



「あ、あ、ある………!」



「じゃあさ、今、繋いでみてよ!」




え?!




「は?!ていうかお前誰なんだよ!」





確かに……!



誰なの?!





「あ、俺?小野 翼!」


 


小野翼……【ONO TSUBASA】



どこかで聞いたことがあるような……。




そんなことないか。





「あ、じゃあ“小野君”…ですか?」



「どうせなら、“翼君”って呼んで!」




え?!




「えっと……そ、それは……」




「一回だけ呼んでみて!一回だけ!」





顔をぐっと近づけて私に聞いてくる。



ち、ち、近いんですけど!!!





「……翼君…っ!」 





「それがいいよ、なーちゃん!」




ニッコリと微笑んで、私から離れた。



………びっくりした…。




「……な、なーちゃんって言ったか?!」




「え、なーちゃんって言ったけど?」




「そ、そのっ、変なニックネームつけんなよっ……!」




た、確かに、変なニックネーム……かも……?



ま、でも……




「あ…いいって大狼君、気に入ってるよ!」



「……な、ならいいけど…。」




安心したかのように微笑んだ。





「本当?!俺も“翼君”って良いと思う!」




「困ってんだろ、早く案内しろよ…」




「あ、こっから…もっと人混みすごいから、手繋いどきなよ?」




ニヤリと不適な笑みを浮かべながら私たちを見ている。




「え………、や、でも……ねぇっ?」




つ、繋ぐとか………



ドキドキしすぎて死んじゃいそうだよ!





「………おう。言われなくてもする」




大狼君の大きな手が、私の手をぎゅっと包み込んだ。




えっ?!



………やばいって、恥ずかしいってぇ!





う、嬉しいけど………!






「………じゃ、ついてきて!」




そんな私たちを満足そうに見た後、翼君は人混みの中に入っていった。





「菜美のさ……好きな人には悪いな……!」





悪い………?



ううん、悪くなんてないよ



だって、私が好きなのは君だよ



悪くなんて、ないんだよ





「……………そうかなぁ……」





人混みの中、小さく小さく呟いた。






「…なんで……?」





ひょっこりと私の顔を覗き込んで言った。





声、聞こえちゃってたんだ………。





「…………う、ううん、なんでもないよ…」





なんでもなくはないんだよ



好きなんだよ……






「顔赤いな、どうした?熱か?!」




びっくりしたように、大狼君が私の額に大きな手を当てる。



えっ?!




「えっ、やっ………その……っ」




そんなに真っ赤?!




「まさか、好きな人の事考えてたり?!」





「そ、そんなわけ………っ」





そんなわけ、あるんだよ。




目の前にいるんだもん。




触れられてるんだもん。







「……っていうかさ、菜美の好きな人って誰なの………?」





突如、耳に入った言葉。





「え………」



 

「ねぇ、誰…?」



 

ニコニコしながら聞かないで





「……な、なんでそんな事聞くの………?」





答えられなくなるじゃん





「気になるから、ダメ?」 





そんな風に、言わないでよ




ドキドキしすぎておかしくなりそうだよ





「………だ、ダメだよ!大狼君には教えられないよ……!」




「ごめんな、無理に聞いちゃって!」





困ったように笑って、前を向いた。





「………あ、着いたよ!」
 



翼君の声で我に返る。



目の前には、クレープツキシマの文字。



その端っこで、不安そうに立っているのは…




「実梨!」



「菜美っ!来てくれてよかったぁ…!」




実梨は走って私達の前に駆け寄ってきた。



瞳がうるうるしてる。



すごく不安だったんだな……。




「会えたみたいだね、じゃあ……また!」



「ありがとうございました!」




翼君は手を振って歩いていった。



………いい人だったなぁ!




「………菜美、あの人って……………」



「ん?実梨の知り合い?」



「………分からないならいいけど…。」 

 


実梨が翼君の後ろ姿を見て、ため息をついていた。




「あっ、早く遊園地行かなきゃ!遅れてるよ!」



「そうだな、急ぐぞ!」



「……ねぇ、2人って付き合ってんの?」 




実梨が私達の顔を、何度も見ながら言った。




「付き合ってない!……な…菜美には好きな人が居るし!」



「だって、手繋いでんじゃん?」




手を指さしてニヒッと笑った。




そういえば………




手………っ!!




「……こ、こ、これは違うのー!!」




繋いだ手を勢いよく離した後でも、実梨はニヤニヤしてる。




「……焦っちゃってぇ!やっぱりかぁー!」



「えっとー、花井さん?だよね?」




大狼君がこっそりと実梨に近づく。




「あっ、はい!花井実梨です!」




でました、実梨の笑顔!

  


「菜美の好きな人って誰?!教えてくんないんだけど…!」

 


え?!




「ちょっ、何聞いてんのっ?!」



「まぁ、それは秘密かな?」




ニヒヒと笑みを浮かべながら私のことをチラチラと見てくる…。




「あー、もう!行くよっ!」




騒いでいる2人を駅まで引っ張って、遊園地へと向かった。