入学式の翌日。
朝弱いくせに、学校生活に胸きゅん弾ませている私は目覚ましと同時に飛び起きた。
リビングに行くとママと弟の慎が驚いた顔で
「お姉ちゃんが起きた。」
と言う。そんな言葉を無視して挨拶しながら席に着いて、トーストをかじる。
「あ、胡桃も慎も今日雨だから傘持って行きなさいね。」
とママが言った。
適当に返事をしてココアを飲み朝食を終え、すぐに学校に行った。
教室に入るとすでにみくちゃんは座っていた。私のクラスはカ行が多いから、榎本の隣の席がみくちゃんだ。
私に気付いたみくちゃんは
「胡桃、おはよっ‼︎」
と可愛らしい笑顔を向けてきた。
私も挨拶を返すと廊下が急にザワザワし始めた。何だろう私たちは廊下を見ると女の子達は廊下の両端に別れて、まるで芸能人が来たかのようにきゃっきゃ騒いでいる。廊下の奥の方を見ると二人組の男の子が歩いていた。二人とも髪が茶髪で、背が高い。そして何よりも、顔が整い過ぎている。この状況について行けない私の隣で息を呑んだみくちゃん。
「何々、あの人たち!」
と聞くと、目を見開いて
「え、胡桃知らないの?」
とテンパっているみくちゃん。
「え、何を?」
「あの右の人、松本陸って人なんだけどここの学校に来てる女子の大半は彼ら目的なんだよ?」
と説明してくれる。けど、理解できない。松本陸って人は何者なんだろう。
すると、知らぬ間に私たちの教室にいた。さっきまで道を作っていた女の子達は窓から教室を覗いている。
でも、さっきから二人はこの子達に何も反応しない。
「ねぇ、何でこの子達に何も言わないの?」
と聞くと、よくぞ聞いてくれたと言う顔で
「陸くんはツンデレ男子として人気なんだよ!」
と説明してくれた。ツ、ツンデレ男子?
ジーっと見ていると、一瞬目が合った。やばいと思ってすぐに逸らしてもう一度見ると彼はこっちを見ていなかったから気のせいだと安心した。
その日の帰りに職員室に用事があり、みくちゃんと別れて担任のもとに向かった。その帰り道に渡り廊下を通ると
「あ、あの。私、陸くんの事好きですっ。付き合ってくれませんか?」
え、まって。これって告白だよね。しかも渡り廊下の途中で。陸くんがこっちの方向を見ている状態。私はどーすればいいのでしょうか。引き返す?そのまま素通り?このまま立ってる?
パニック状態になる私はキョロキョロしていたら、陸くんとまたもや目が合ってしまった。
うぇ。今回こそやばいでしょ、これは。
うん、引き返そう。そう思ってクルッと来た道に方向転換して足を踏み出そうとした時。
「おい。」
私は自分な訳ないのに止まってしまい、また歩き出そうとすると今度は
「おい、お前。何逃げてんの?」
ビクーーーッ。やっぱり私ですか?
いや、逃げては…まぁ出くわしては行けないとこに来てしまったとは思ってますけど!…あ。呼び止められてるんだ。
反射的に振り返ると、私の顔を見ると何かを思い付いたかのような顔をして
「こっち来いよ。」
と呟いた。怒ってらっしゃる。大人しく二人のところに行くと、私の腕を引っ張って耳元で
「お前何でここにいんの。」
と呟いた。
へ?やっぱり怒ってるよね。女の子を見ると、顔が真っ赤になっていた。
ごめんなさいを言おうと思ったら、
「ごめん。」
と言って私を見つめる陸くん。
そして次の瞬間、女の子が
「えっ」
と言った。その理由はただ一つ。
彼が私に……キスをしたから。
一瞬だったけど確実に触れていた。
え。え、なにこれ。
気付いた時には女の子はいなかった。
「悪りぃ。んじゃーな。」
あ、さよなら。っておい!なに今の。おかしいでしょ。おかしいですよね?ほぼ初対面の人がキスするの?ここは日本ですよ?
なんて思っているときにはもう、松本陸はいなかった。
こっから始まる最悪な高校生活に何故、あの時気づかなかったんだろう。