ピンポーン
インターホンが鳴った。

またおばさんかと思ってドアを開けるとそこに兄が立っていた。

「お兄ちゃん!」

そういえば今日が出所の日だった。
「よぉ、鈴!久しぶりだな。」

少年院に入るまでは同じくらいの身長だった兄が今では全然私より高くなっていた。



兄を部屋に入れ紅茶とシフォンケーキを出した。

「うぉぉ。うまい。」
と私の分のケーキまで食べられた。

美味しいものだと私の分まで食べてしまうところは幼い頃から変わっていない。



「そういえば鈴はどこの高校に進学するんだ?」

私は進学する高校のパンフレットを渡した。

「南星高校よ。」

兄はパンフレットをパラパラと適当に見て机の上に置いた。

「都内の高校に行くのか。俺は明日からアメリカに行く。」

突然の話に一瞬固まった。

「え、え、アメリカ?!しかも明日?!そんな急に!お金は?」

私の驚き方に兄は手を叩いて笑った。

「アメリカの高校に行くんだ。お金は友達が払ってくれるぜ。」

全額払ってくれるなんて、なんていい人間がこの世の中にはいるだろうと思わず苦笑した。

「でも少年院にいたじゃん。高校行けるの?」

「なに言ってんだ?少年院?なんだそりゃ。そんな所にいねぇよバーカ。」

バシッ
笑いながら頭を叩かれたけど、結構痛い。

「俺は今までもずっとアメリカにいたんだ。今朝、帰国してお前の家に来た。」

少年院だのアメリカだの話がぐちゃぐちゃすぎて、もうなにがなんだか分からなくなった。

「と、とりあえずアメリカに行っちゃうのね。」

頭がついていけていないけだ、とりあえずそういうことなんだろう。

「ふっ。しょうがないから、この優しい優しいお兄様が時々会いに来てあげますよ。」
と言って兄は私の頭をポンポンっと撫で、立ち上がった。

「もう行くの?」
「あぁ、いろいろと準備があるからな。」

兄に会えたものの、私の思い出せていない記憶のことは何も聞けなかった。

兄は、私の愛用しているキャリーバックを持って
「これ、借りてくぜぇい!」
と元気に家を出ていった。