一人、また一人と帰って行く教師たちの中、直哉と山根は何を話すこともなく自分達の机に向かっていた。

窓の外だけが、賑やかな夏の始まりを告げるように眩しく光を溢れさせている。

そして、時間は静かに流れていた。



直哉は書類の束を机で打つように整えると、山根の方へ背中越しに近付いた。

グレーの椅子が、キィキィと古めかしい音をたてる。



「山根、聞いてくれるか?もしかしてお前が勘違いをしてるかもしれないから……」


「先輩夫婦は理想ですよ」


「えっ……?」



山根はくるりと椅子を回し振り返った。



「夫婦で夢を追いかけるなんて、なんかいいなぁってずっと思ってましたよ。だから……正直ショックでした。早川先生だっていろんな噂をたてられてます。でもオレは彼のそんな現場を見たことなんてないし」


「山根……」


「だから!先輩がオレの生徒とそういうことをしている場面を見てしまったのはキツイんですよ。気持ち的に……辛いんです。放課後の話は少し知ってました。別にそれくらいいいと思ってましたから何も言いませんでしたけど、だからって特別な関係になることは許されないでしょう」



勢いで山根は立ち上がった。

荒れる息をその下で受けながら、直哉も口を開く。



「山根、そんなんじゃないよ。ただ……気持ちがまったく無かったかと言われたらそれは」


「やめてくださいっ。これ以上落胆させないでくださいよ。……オレも見回り行って来ます」



山根はカバンを手にとると、足早に職員室の扉を抜けた。



「山根!僕はこの夏に……。こんな関係のままだなんて、心残りになるだろ」



溜息だけが、静かな職員室に響いた。