生徒がいなくなった校舎では、職員室から漏れる声も空気の中を遠く渡らせる。

直哉が扉を開けると、中では山根を囲んだ教師たちが賑やかに場をはやし立てていた。



「ちょっとぉ、全然そんなこと言ってなかったじゃないですか〜」



噂好きの浦辺が不満げな表情を浮かべている。



「別にいちいち報告する義務はないでしょう」



あっさりと言い放つ早川。

直哉に気づいた浦辺は、そのすぐ近くに駆け寄ってきた。



「吉原センセーイ。先生は知ってたんですか?山根先生が来年結婚するって」


「えっ……いや」



直哉は山根に視線を向けた。

山根は少し顔を上げ直哉の方を意識したが、また顔を背けて言った。



「大学時代のクラスメイトなんです。報告遅れてすみません、吉原先生」


「あ、いや……そうか、知らなかったよ。おめでとう」



背中合わせになる山根の席が、とても遠く感じられる。



「それじゃあ早速、今夜飲みで決まりですよね」


「気が早いんじゃないですか?浦辺先生」


「相変わらず堅苦しいですよ、早川先生は。そんな風だから変な噂たてられるんです!」


「えっ……、別に私は……。とにかく、見回りに出掛けましょう」



テスト期間中は生徒たちが早めの帰宅をするため、地区の教師たちが交代で繁華街を見回ることになっている。

この日は浦辺と早川の番になっていた。



「じゃあ山根先生、見回りが終わる5時頃にいつもの店で。鞘野先生にも連絡しなきゃ。あ、吉原先生も来られますよね?」


「あー、すみません。今日は僕やらなければならないことがあるので。次回でお願いします。……ごめんな、山根」