水瓶座デルタ流星群の時期は比較的長いのだが、その見える時間帯が遅いことと、一番多く見える時に満月が重なることで、目にする機会を減少させていた。

学校や施設の機材を使いたくても、高校生の立場では容易な時間ではない。



「それなら街の奥の展望台で見るのはどう?あそこなら私たち教師が頼めば機材だって貸してもらえると思うし。今日なら天気もいいから良く見えるわ」


「でもそんな急に大丈夫なんでしょうか」


「あら、急がないと満月になってしまうじゃない?それに夏休みに入ると人も増えるから、今日あたりがベストよ」



鞘野の様子は涼香を急き立てるかのようにも思えたが、胸にある重い陰を少しでも消し去りたいと感じていた涼香は、鞘野との待ち合わせに応じた。

もちろん、自分と直哉の星座であることにも惹かれている。



「それじゃあ私は他のメンバーにも連絡を」


「あっ、大丈夫よ。私からしておくから」


「え?鞘野先生がですか?」


「教師が連絡しておけば、保護者の方も心配しないから」



鞘野の気を配った態度と仕草に涼香は救われるような思いを感じていた。



「わかりました。ありがとうございます。それでは、夜の10時頃展望台で」



晴れないままの表情ではあったが、涼香はほのかに笑顔を見せる。

そしてログハウスを後にするその後ろ姿を見ながら、鞘野は携帯を取り出した。



「あ、こんにちわ。鞘野です。ええ、展望台に呼びましたから。……あら、そんなこと言っても、もう戻れませんよ。私とあなたとは、同じ境遇を抱えた仲間なんですから。ねぇ、美咲さん」



鞘野は棚に置かれた星図を見ながら夏の夜空を想像した。



「本当に夏の夜は騒がしいわね。何かが起こっても、そんな事実さえ消されてしまいそうだわ」



風のなかった空に、広葉樹が大きく揺れた。