山根の車が涼香の家の前に到着すると、ちょうどステレオから流れていた曲も終わりを差し、その車中は静かな空間となっていた。



「……ありがとうございました。あの……山根先生」


「おやすみ、早瀬。明日も元気に学校来いよ」



涼香の言葉を遮るように、山根は運転席側から助手席の扉を開けた。

涼香は唇をぐっと閉じ、シートから腰を上げ車外に出る。

そしてもう一度山根の顔を覗けば、そこには手を降りながら見送るいつもの笑顔があった。



「先生……」


「早瀬、何も心配しなくていいから。オレの生徒は、オレが絶対守ってやる」



力強くそう言い残して、山根の車は空も明らむ街の方へと走り去って行った。

教師としての信念を貫く山根。

しかしその言葉は、涼香の胸に辛く重くのしかかるものになっていくのだった。