タクシーのライトが近付いてくる。

暗闇だった門の前には、やがて眩しい光が立ち止まった。



「吉原先生」



開いた扉に手を掛けようとした直哉が振り向く。



「山根……」


「早瀬はオレが送って帰ります。早瀬、オレの車に乗れ」



いつもの気さくな山根とは違う。

頬を強張らせた厳しい表情で、山根は直哉の方をまっすぐに見据えていた。



「いや、山根。今日は僕が送って帰るから」


「だめです、先輩!」



山根のその強い口調に、直哉と涼香は顔を見合わせる。

握られる山根の拳は、かすかに震えていた。



「……すみません、吉原先生。早瀬はオレの生徒ですから。オレが連れて帰ります」



そう言って涼香の腕を引っ張り、山根は自分の車の方へとその背中を押した。

涼香は直哉の方を何度か振り返りながら、それでも山根の言う通りに車の方へ歩いていく。



「もうすぐ早川先生も出てきます。だから先輩は早くそのタクシーで帰ってください」


「山根、違うんだよ。これは……」


「いいですから!今日はもう帰りましょう」



無理矢理に直哉をタクシーへ押し込み、山根は勢いよく扉を閉めた。

動きだした窓からの校舎を横目に、後部座席に一人座った直哉はそのまま項垂れるように額を抱える。

大きな溜め息が、幾度となく漏れた。