置き忘れた傘を手にした涼香は、南校舎の裏からあのログハウスへと足を向けていた。
澄み切らない天気のせいで誰も集まってはいないが、もしかしたら見えるかもしれないという思いと、心を落ち着かせたいという気持ちであれから学校へ戻って来ていたのだ。
「早瀬さん?まだ残っていたの?」
二階の窓から聞こえる鞘野の声に、涼香は顔を上げた。
「あ、すみません。今日は流星群が見える日なので星を眺める会の活動をしようと思って」
「あなた一人で?」
「は……はい」
鞘野は左腕の時計を確認した。
「あなたたちの活動は日直が付き添わないといけないでしょ。でも私これから用事があるのよね」
付き添いが必要なことはもちろん涼香も分かってはいたが、今日は雨上がりで誰にも気づかれず一人で星を見ることができるのではないかと思っていたのだ。
やはり帰らなければいけないだろうか。
迷いながら靴をコンクリートに擦らせる。
「仕方ないわね。誰か他の先生に頼んでみるから」
そう言って携帯を取り出した鞘野は、そのまま窓を締め姿を消した。
涼香はホッと胸をなで下ろし、ログハウスの梯子に足を掛ける。
今夜は多分、見える気がする。
「ええ、生徒が一人だから心配で。三年の早瀬涼香です」
鞘野が携帯を閉じると、最終のバスが校門前の大通りに車体を見せかけた。

