「も、もうっ!教師をからかわないで!それより櫻井さんのお家、こっちじゃないでしょ?」


「はい、今日はお二人のデートにお邪魔しようと思いましてやって来ました」



直哉がメガネを直す仕草の真似をして、瑠未はにんまりと笑顔で答えた。

戸惑い手を口にかざす美咲。

それを見て直哉は、瑠未からメガネを取り上げた。



「美咲、櫻井の冗談だよ。真に受けるなって」


「そ、そう。なんだ、びっくりしちゃった」



ホッとした表情を見せて俯き微笑む美咲は、雨の景色にどこか美しく見える。

なぜこの女性一人を想えないのか。

何に不満があるのか。

直哉は手に持ったメガネを軽く拭って掛け直した。



「お買い物して帰るのね。遅くまで出歩いてちゃダメよ」



傘をさして歩いていく瑠未に手を振る美咲。

直哉はその反対側に立ち、自分の傘を半分差し出して美咲の傘を伏せた。

そして振り向く美咲に微笑みつぶやく。



「一本でいいだろ?」