本人に聞くなどできるわけがない。

だからと言って職場の離れてしまった直哉の様子を、逐一知らせてくれる存在などはなかった。



ただ不安だけが押し寄せてくる。

美咲は広げたままの冊子を片付け自分のカバンに入れた。

目の前では直哉が無言で時計を眺めている。

まだ、出勤時間には余裕があった。



「ねぇ、直哉。今日駅前で待ち合わせしない? 雑誌で紹介されてたお店に行ってみたいのよ。ちょっと待ってて」



慌てて寝室に行く美咲を視線で追いながら、直哉はタバコに火をつけた。

昨日の早川との決め事。

涼香が放課後教室に来たら、直哉はそれを伝えなければならない。



涼香はどんな態度を見せるだろうか。

視線を遠ざけ想いに耽る。

そしてふと我に返り、こんなところまでも涼香のことを考えてしまう自分にまた呆れ頭を悩ませた。