「僕がこうすることで、早瀬にも前を向いて進んでほしいんだ。勝手なのは分かってる。でも今はそれしか道がない。それが、僕の出した答えだ」


「先輩……」


「こんなことを言っても仕方ないけど……もっといろいろ話しておけば良かったよな、お前くらいには」



大きく深呼吸をした後、重く感じるかばんを持って立ち上がる。

直哉は軽く右手を上げて、その場から去ろうとした。



「それなら……先輩の本当の気持ちくらい伝えてやってもいいんじゃないですか。オレにもすべては伺い知れませんけど、このまま先輩がいなくなるだけじゃ早瀬には理解できないことが多すぎる。だからちゃんと……」



後ろから山根が身を乗り出すと、花瓶の水を変えに行った奈緒美が戻ってきた。

扉の陰に目をやって、誰かを中に誘い入れようとしている。

そしてその姿を確認した直哉は、山根の肩を軽く叩いて病室を出ようと扉に向かった。

すれ違う涼香にも言葉はない。



「先輩っ!痛てっ…」


「大丈夫っ?」



駆け寄った奈緒美の腕を支えに、山根は直哉を視線で追う涼香に目を向けた。

切ないその瞳に、山根の心にまでも何かが突き刺さる。



「……行っていいぞ、早瀬」



ただ立ち尽くしていた涼香に山根が声をかけると、置き去りにされた花束からはかすみ草がこぼれ落ちた。

急ぐ足音が遠のいて行く。



奈緒美が拾ったその花を受け取ると、山根は日の沈みかかった空を仰ぎ再びそのかすみ草に顔を近付けた。



「星屑みたいだな」