日向 千聖は、損な生き方をしている女だった。自己犠牲の塊みたいな奴で、よく此処まで生きてこれたと感心するくらい重い過去を背負った女だった。


俺ら全員が溺愛している妹的ポジションにある千聖。華奢で小柄で、まるで小動物みたいに愛くるしいその容姿は庇護欲を煽られるもので、特に男からしてみれば構わずにいられない。


「……ちーの奴、最近おかしくねぇ?」


俺は香音と談笑している千聖を横目に、ベランダで気怠げに煙草を吸っている目付きの悪いイケメンに話しかけた。
こいつの目付きの悪さは並大抵のもんじゃねぇ。


それでよく絡まれるとかで、今では少しでもマシになるようにと眼鏡をしている。最初はあまりの似合わなさに笑っていたけど、やはりイケメンは得するらしく様になってきてイラつく。


目付きの悪さと態度の横暴さが目立つこのイケメンの名前は神谷 慈雨。
俺とは高校からの付き合いになる。そんで、実は香音の幼なじみだったりする。


「……何も言わねぇんだよあの馬鹿。気に入らねぇから、アイツ連れて帰る。」


慈雨の横暴な言葉に、俺は呆れの視線を向けてやった。
ほんと、こいつの千聖への恋情はまるで狂気の沙汰だ。不憫でならない。


熱烈な慈雨の恋情は、俺達の仲では周知の事実で、千聖だけがそれに気付かないでいる。…まあ、それも当たり前だ。
なんせ、慈雨の愛情表現は普通じゃねぇからな。


千聖の奴は馬鹿だから、自分は慈雨に嫌われていると思っているかもしれねぇ。
まあそれも言ってみりゃあ慈雨の自業自得何だかな。