ジュースをせがむユイに結局はいつも根負けする青年は、彼女が好むオレンジジュースを持ってグラスを渡す。
チビチビと飲むユイの隣に座った青年は、何も言わずに時折横目で少女を見る。


ユイは鼻歌を唄いながら、足をブラブラさせる。ご機嫌なのか、にこにこと笑いながら首まで揺らしている。
ユイは、まるで不可思議な存在だ。


「……ねぇ、ユキにゃん。」


「その呼び方ヤメろチビ子。」


「チビ子ゆーのやめろユキにゃん。」


終わりのない言い合いもいつものこと。それにユイはまた楽しそうに笑う。彼女はいつも、こんな風に自由だ。


椎名 雪春は、彼女について『ユイ』という名前しか知らない。